HMSN-Pの病名について
エイチエムエスエヌ・ピー
Hereditary motor and sensory neuropathy with proximal dominant involvement
もともと沖縄県内での症例報告が多く見られたため、発見された地域名や似た病気の名前で呼ばれていましたが、研究が進んで時代ごとにいくつかの呼び名が存在しています。
近位優位型遺伝性運動感覚ニューロパチー
沖縄型神経原性筋萎縮症
沖縄型ALS
沖縄型筋萎縮性側索硬化症
琉球型筋萎縮症
HMSN-Pの病気について
原因について
遺伝子の変化によって起こる、神経の病気です。
人の体には、体をつくり動かすためのたくさんの設計図(染色体や遺伝子)があります。 HMSN-Pでは、その中の「TFG(ティーエフジー)」という遺伝子に変化(変異)が起きていることが分かっています。 この変化があると、神経の細胞が少しずつ弱っていきます。
どのように受け継がれますか?
両親のどちらか一方からこの遺伝子の変化を受け継ぐと発症します。 これを常染色体顕性遺伝(じょうせんしょくたいけんせいいでん)といいます。 以前は「優性遺伝」と呼ばれていた受け継ぎ方で、同じものを指します。
この場合、お子さんに遺伝子の変化が受け継がれる可能性は、お一人ごとに2分の1です。 受け継がなかった場合、そのお子さんからさらに下の世代へ伝わることはありません。
どのくらいの方がいますか?
日本全国ではこれまでに150名ほどの患者さんがおられるとされ、とくに沖縄県で多くみられます。 国外でもブラジル、韓国、イラン、インド、トルコなどから報告があり、 いずれもTFG遺伝子の変化が確認されています。
遺伝子を調べるのですか?
採血によって、TFG遺伝子(TRK-fused gene)に c.854C>T(p.Pro285Leu)という変化があるかどうかを調べます。
遺伝すると聞いて心配です
この病気のことを知ったとき、多くの方がいろいろな悩みをかかえられます。
- 自分はこの病気を受け継いでいるのだろうか
- この症状は関係しているのだろうか
- 家族に伝えるべきかどうか、伝えるとしてどう伝えたらいいのか
- 結婚や子供を作るのはどうしたらいいのか
- 結果を聞いても、自分自身がまだ受け止めきれていない
- 子どもには知らせたくない、言わないでほしい
- 誰かに話を聞いてもらいたいけれど、そういう場所が思いあたらない
どれも自然なことで、ご自分でかかえこまなくてよいものです。
こうしたご相談には、遺伝カウンセラーという専門の資格をもった人が対応します。 病気の受け継がれ方や検査のこと、ご家族への伝え方など、 時間をとって、ご希望に沿ってお話をうかがう役割の人です。
当院には遺伝カウンセラーが在籍していません。 ご希望があれば、対応できる施設をご紹介します。 まずは診察の際に、主治医にお声かけください。
HMSN-Pの症状と検査について
どんな症状がありますか?
症状の出かたや進み方には個人差が大きく、以下がすべての方に当てはまるわけではありません。
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筋肉のつり(有痛性筋痙攣)
30~40代に、最初の症状としてみられることが多い症状です。足のつりから始まり、おなかへ広がることがあります。 指や首がつると感じる方もおられ、断続的に繰り返します。 夜眠っているときや、体の向きを急に変えたときに起こりやすい傾向があります。 -
筋力低下
低い椅子から立ち上がる、階段をのぼる、洗濯物を干す、髪の毛を洗うといった動作で、 力の入りにくさを自覚するようになります。 症状は年月をかけてゆっくり進みます。報告では、最初の症状が出てから10数年から20数年で歩行が難しくなり、 さらに年月が経つと呼吸の力が弱くなることがあるとされています。 ただし進み方には大きな幅があり、リハビリや装具、呼吸のサポートによって、 できることを保つ工夫は複数あります。 -
感覚の異常
手や足の先に、じんじん・じりじりとした異常な感覚や、感じにくさが出ることがあります。 程度には個人差がありますが、筋力低下とあわせてみられることが多い症状です。 -
飲み込みにくさ
ご自身では気づいていない方が多いのですが、検査をすると、飲み込むタイミング(反射)が遅れる、 食べ物がのどの通り道の途中で残ってしまうなど、うまく飲み込めていないことがあります。 早めに把握できれば、食事の工夫や練習で対応できます。 -
夜間の低酸素血症
こちらも自覚のない方が多い症状です。検査をすると、 睡眠中に血液中の酸素が下がっており、休息が十分にとれていないことがあります。 朝の頭痛や日中の強い眠気が手がかりになることがあります。
どんな検査がありますか?
似た症状の病気と見分けるため(鑑別診断)に、検査を行います。
「力が入らない」「足がもつれる」「筋肉が痩せてきた」といった症状は、一つの病気だけに起こるものではありません。 神経の病気(神経伝導のトラブル)でも、筋肉の病気(筋肉自体のトラブル)でも、とても似たような症状が現れることがあります。また、背骨(首や腰)の病気や代謝の病気などが原因で、同じような症状が出ることもあります。
症状を見ただけでは見分けることが難しいため、当院では下記の詳しい検査を行っています。
- 徒手筋力検査
- 振動覚・握力検査
- MRI検査(頭部・脊椎・筋)
- 神経伝導検査
- 針筋電図検査
- 反復神経刺激検査
- 誘発電位検査
- 末梢神経・筋の超音波検査
- 嚥下造影・嚥下内視鏡検査
- 体成分分析検査
- 重心動揺検査
- 運動機能評価
- 肺機能検査
- 終夜SpO2測定検査
- 血液・髄液検査
HMSN-Pの治療について
薬による治療はありますか?
現在のところ、病気そのものの進行を止めるお薬はありません。 そのため薬は、つらい症状をやわらげ、生活をしやすくするために使います(対症療法といいます)。 症状の出かたは人によって違うので、使う薬も一人ひとり異なります。
症状をやわらげる薬
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筋肉のつり(こむら返り)
夜間や運動後に起こりやすい症状です。漢方薬(芍薬甘草湯)や筋肉のこわばりをやわらげる薬などを使います。 -
しびれ・ぴりぴりする感じ・痛み(異常感覚)
神経の働きを助けるビタミンB12製剤や、神経の痛みに用いる薬を使います。 -
筋肉のこわばり・つっぱり
筋肉の緊張をやわらげる薬を使います。 -
そのほか
便秘、こむら返りに伴う睡眠の妨げ、気分の落ち込みなど、生活の支障になっている症状に合わせて調整します。
合併症に対する薬
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脂質異常症・糖尿病
この病気では合併しやすく、当院に通院されている方にも少なくありません。 いずれも薬でしっかり治療できます。放置すると神経や血管の状態をさらに悪くすることがあるため、あわせて治療していきます。
症状の感じ方はご本人にしかわからないものです。 「これくらいは仕方ない」と我慢されている方も多いのですが、 薬で軽くできる症状は少なくありません。診察の際に遠慮なくお伝えください。
薬以外の治療はありますか?
HMSN-Pの治療で中心になるのは、むしろ薬以外の取り組みです。 残っている力を保ち、転倒や飲み込みの障害といった困りごとを防ぐことを目的としています。
リハビリテーション
適度なリハビリ、特に装着型サイボーグともいわれるロボットスーツHALを用いたリハビリ治療が、特に歩行可能な段階で功を奏するといわれています。 HALは、動こうとしたときに体の表面に現れるわずかな信号を読み取り、その動きを助ける機器です。 ご自分の力で動く感覚を保ちながら練習できることが特徴です。
一方で、疲れ果てるまでの運動や、無理に負荷をかけるトレーニングは、かえって筋力を落としてしまうことがあります。 「適度」がどのくらいかは病気の進み方によって変わりますので、理学療法士と相談しながら量を決めていきます。
装具・杖・車いすなどの活用
足首の力が弱くなるとつまずきやすくなります。短下肢装具や杖を使うことで、歩ける距離が延びたり、転倒を防げたりします。 道具を使うことは「あきらめ」ではなく、行きたい場所に行き続けるための手段です。 必要な時期に必要なものを用意できるよう、定期的に相談していきます。
栄養と体重の管理
体重が減りすぎると筋肉も落ちてしまいます。逆に増えすぎると、弱った足腰の負担になります。 体成分分析検査の結果をもとに、管理栄養士が食事のご相談に応じます。
飲み込みのリハビリ
むせやすくなってきた場合は、言語聴覚士が飲み込みの練習や、食事の形・姿勢の工夫をご案内します。 誤嚥性肺炎を防ぐうえで大切な取り組みです。
呼吸のサポート
呼吸に関わる筋力が落ちてくると、夜間の睡眠中に息が浅くなることがあります。 朝の頭痛や日中の強い眠気があるときは、検査のうえで、必要に応じて呼吸を助ける機器(NPPV)の使用を検討します。
生活環境の調整
手すりの設置、段差の解消、履き物の見直しなど、住まいの工夫で転倒はかなり減らせます。 介護保険や身体障害者手帳の利用については、医療ソーシャルワーカーがご相談をお受けします。
ロボットスーツHAL®による歩行訓練の紹介
【動画制作にあたって】
本動画は、「自分の病気やリハビリの実情をより多くの人に知ってほしい」という強く願うKさんが、
その使命感のもと全面的にご協力くださり実現しました。
Kさんの勇気ある情報提供と、公開へのご快諾に心より感謝申し上げます。
HAL®リハビリの実際
当院で実施しているロボットスーツHAL®*用いたリハビリテーションについて、実際の様子をご紹介します。
脳からの微弱な信号を皮膚表面で検知し、動作をアシストするHAL®が、どのように歩行機能の改善を促すのか、実際の訓練風景をご覧ください。
この動画では、HAL®装着から訓練までの流れ、担当理学療法士の指導、そして訓練中の安全性確保の工夫など、具体的にどのようなリハビリが行われるかを知ることができます。
ロボットを使ったリハビリに対する不安を解消し、治療を検討する上での重要な参考情報としてご活用ください。
実施しているHMSN-Pの研究
当院の脳神経内科では、最新の医療技術と知識を駆使して、脳・神経・筋疾患に関する臨床研究を積極的に進めています。
その中には、近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)の患者さんを対象にした臨床研究もあり、沖縄病院は共同研究実施医療機関として参加しています。
現在進行中の臨床研究について詳しく知りたい方は、以下のリンクから詳細をご覧ください。研究課題や公開文書などさまざまな情報を提供しております。
市民公開講座について
近位筋優位遺伝性運動感覚ニューロパチー(HMSN-P)の研究班では、一般の皆さまを対象にした公開講座を開催しております。
市民公開講座を通じて神経難病に対する理解を深め、克服への一歩を共に踏み出しましょう。
第2回市民公開講座
2025年12月22日(日)11-13時 沖縄県立博物館・美術館 博物館講座室
第3回市民公開講座
2025年11月2日(日)11-13時 那覇市上下水道局「みずプラッサ」B棟
関連先リンク
学会発表について
メディカルセッション優秀演題 受賞
第67回日本神経学会学術大会 2026年5月23日(土)横浜パシフィコで開催された学会についてこちらからご覧になれます。
